こんにちは。「品川区民とつくる未来」の新井さとこです。
品川区での暮らしにもすっかり慣れ、子育てしやすいこの街が大好きだと感じる毎日です。しかし、数年前から私たちの日常に、ふとした瞬間に割り込んでくる大きな音があることに気づかされます。「ゴォーッ」という、空気を揺らすような轟音。空を見上げれば、ビル群のすぐ上を、まるで手を伸ばせば届きそうなほど低く、旅客機が通り過ぎていきます。
はじめは「都会ならではの光景かな」と思っていましたが、その頻度と音の大きさは、日を追うごとに無視できないものになってきました。特に、子どもと公園で遊んでいる時や、家で静かに過ごしたい時にこの音が響くと、心がざわついてしまいます。
先日、私の知人からも「飛行機の音が本当にうるさくて。窓を開けられないし、子どもが怖がる時もあるの。これ、どうにかならないのかな?」と、とても心配そうな声で相談を受けました。きっと、同じように感じている方は、品川区内に沢山いらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、この「飛行機騒音問題」について、少し深く掘り下げてみたいと思います。
第1章:なぜ?私たちの頭上を飛行機が飛ぶようになったのか
この問題、一体いつから、そしてなぜ始まったのでしょうか。
全ての始まりは、2020年3月29日に本格運用が開始された「羽田空港の新飛行ルート」にあります。目的は、増加する訪日外国人旅行客に対応するための、羽田空港の国際線増便でした。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、日本の国際競争力を高めるという大きな目的があったのです。

飛行機は風に向かって離着陸するのが基本です。羽田空港では、年間の約6割が南風の吹く状況、いわゆる「南風時」にあたります。これまでのルートは、騒音を避けるために主に東京湾上空を飛行していましたが、発着便数を増やすためには滑走路を効率的に使う必要がありました。そこで、南風時の午後3時から7時のうち3時間程度、都心上空を降下しながら着陸するルートが新たに設定されたのです。
このルートが、品川区、港区、渋谷区、大田区など、都心部をまっすぐに貫く形で設定されています。特に品川区は、大井町駅周辺で高度約300mという、かなりの低空で飛行機が通過するエリアとなっており、これが大きな騒音の原因となっているのです。
第2章:「88デシベル」という衝撃。騒音を数字で見てみる
「うるさい」という感覚は主観的なものですが、この問題は客観的な数値としても深刻さが表れています。
騒音の大きさを表す単位に「デシベル(dB)」があります。環境省の基準では、住宅地の昼間の騒音は55デシベル以下が望ましいとされています。では、飛行機の騒音はどのくらいなのでしょうか。
国土交通省の資料によると、品川区上空を通過する航空機の騒音は、70デシベル台後半から80デシベル台前半と想定されています。これは「走行中の電車内」や「騒々しい工場内」に匹敵するレベルです。
さらに衝撃的なのは、区が設置した騒音測定器のデータです。ある観測地点では、最大で88デシベルという数値が記録されたこともありました。80デシベルを超えると「極めてうるさい」と感じるレベルで、具体的には「犬の鳴き声」や「パチンコ店内」の騒音に相当します。
普段の生活音と比較してみましょう。
- 静かな図書館: 40 dB
- 普通の会話: 60 dB
- 掃除機の音: 70 dB
- 飛行機の通過音: 75〜88 dB
55デシベル以下が望ましいとされる静かな住宅地で、これだけの轟音が数分おきに鳴り響く。これが私たちの日常になっているという事実は、重く受け止めざるを得ません。
第3章:品川区だけの問題ではない、けれど…
この新飛行ルートは、港区や目黒区、渋谷区、新宿区など、広範囲にわたって影響を及ぼしています。高層ビルが立ち並ぶ都心部を低空で飛行するため、どの区でも住民からの不安や不満の声は上がっています。
しかし、その中でも品川区が特に深刻な影響を受けていると言われるのには理由があります。ルートの特性上、品川区は羽田空港に着陸する直前の、航空機が最も高度を下げるエリアの一つなのです。高層マンションの上層階にお住まいの方にとっては、まさに目の前を飛行機が通過していくような感覚でしょう。
2023年に品川区が実施した全区民アンケートでは、回答者のうち44.5%が「生活に影響を受けている」と答えています。そして、影響を感じる内容として、実に88.9%の人が「騒音」を挙げました。
自由記述欄には、「窓を開けられない」「テレビの音が聞こえない」「在宅ワークの会議に支障が出る」といった切実な声が2万件以上も寄せられたそうです。これは、他ならぬ品川区民の「実感」であり、この問題の根深さを物語っています。
第4章:4人のママと本音トーク!「子育て世代のリアルな悩み」
先日、区内在住の4人のママ友とお茶をする機会がありました。話題は自然と飛行機のことに。
「この前、区のアンケート結果を見たんだけど、やっぱりみんな同じように感じてるんだね。うちの子、お昼寝してても飛行機の音で起きちゃうことがあって…。せっかく寝かしつけたのに、また一からやり直しで心が折れそうになる(笑)」
「わかる!『80デシベル』って数字で見ると、改めてすごい音だよね。うちはベランダで洗濯物を干している時に真上を通ると、思わず耳を塞いじゃう。子どももびっくりして泣き出しちゃうし」
「在宅で仕事をしてると、本当に切実。大事なオンライン会議中に『ゴォーッ』って始まると、相手の声が聞こえなくなるし、こっちの声も届かなくなる。『すごい音ですね』って気を使われちゃうのも申し訳なくて…」

「そもそも、経済のためっていうのは分かるけど、そのために一部の住民がこれだけの騒音を我慢しなきゃいけないのかなって。防音サッシの助成金制度もあるみたいだけど、夏場に窓を閉めっぱなしっていうのも現実的じゃないし…。根本的な解決にはならない気がする」
みんなの言葉に、大きく頷くことしかできませんでした。子どもの睡眠や健康への影響、仕事への支障、そして何より「静かな環境で、穏やかに暮らしたい」という当たり前の願いが、脅かされている。これは、子育て世代にとって、本当に深刻な問題なのだと痛感しました。
第5章:行政の対策と、私たちにできること
もちろん、国や区も対策を講じていないわけではありません。
国は、騒音の小さい機種(低騒音機)の導入を航空会社に促したり、より急な角度で降下することで騒音を軽減する「急角度降下方式」の導入を進めたりしています。また、品川区では、騒音対策として防音工事(防音サッシの導入など)への助成金制度を設けています。
しかし、これらの対策が十分かと言われれば、多くの住民は疑問を感じているのが現状です。ルート直下に住む人々にとっては、低騒音機になっても依然として音は大きく、助成金があっても窓を開けられない生活は変わりません。
大切なのは、この問題を「仕方ないこと」として諦めないことだと思います。
まずは、私たち住民がこの問題に正しく関心を持つこと。そして、品川区のアンケートのように、行政が意見を求める機会があれば、積極的に私たちの声を届けること。家族や友人とこの問題について話し合い、地域全体で課題意識を共有することも、大きな力になるはずです。
おわりに:私たちの暮らしと、これからの空へ
品川区は、交通の便も良く、水辺や緑も豊かで、本当に子育てしやすい素晴らしい街です。この街で、子どもたちに健やかな毎日を送ってほしい。それは、ここに住む全ての親の願いだと思います。
経済の発展も重要ですが、それによって住民の穏やかな生活が犠牲になって良いはずがありません。この飛行機騒音問題は、利便性と生活環境のバランスを、私たち一人ひとりがどう考えていくべきか、という大きな問いを投げかけています。
これからも、この問題について関心を持ち続け、一人の母親として、そして品川区民として、何ができるのかを考えていきたいと思います。
皆さんは、この飛行機騒音問題、どう感じていますか?ぜひ、ご家庭やご友人と話すきっかけにしていただけたら嬉しいです。
品川区民とつくる未来 代表 新井さとこ
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