こんにちは。「品川区民とつくる未来」の新井さとこです。今日は、戸越・平塚・西品川を中心とした内水氾濫のお話をしたいと思います。少し個人的な体験から始めさせてください。
この前の集中豪雨のとき、私は外にいました。スマホで雨雲レーダーを見ていたものの、にわかに空が暗くなり、あっという間に路面の水位が足首近くまで上がりました。雨水ますから水が噴き上がり、低地に向かって川のように流れていく。正直、恐ろしかった。その瞬間、頭に浮かんだのは、まず娘は大丈夫かということ。学校からの帰路のルート、どこが低いか、横断歩道の縁石は水に隠れないか。慌ててメッセージを送り、近い屋内に入るように伝えました。
同じような体験をされた方は少なくないはずです。だからこそ、品川区が東京都と連携して進めている浸水対策、特に第二戸越幹線などの整備で掲げられている「1時間50ミリ対応」が、現場でどのように効いてくるのかを、わかる言葉で整理してみます。
品川区の浸水対策の要点
品川区は、平塚・戸越・西品川地区で雨水排除能力を底上げする浸水対策事業を進めています。完了すると地域としての対応力が1時間50ミリ相当まで引き上がり、既存の貯留施設と組み合わせることで、50ミリを超える降雨でも被害を軽減できると説明されています。事業の柱は、雨水幹線の増強と貯留の拡充です。計画の名称としてよく出てくるのが第二戸越幹線で、事業期間は平成29年度から令和12年度までと案内されています。施工パッケージとして、北品川の特殊人孔整備、取水・空気抜き設備整備などが随時進んでいます。
この事業の狙いと進め方は、区の公式ページに平易にまとめられていますし、背景にある総合治水の枠組みも改定されています。浸水被害の常襲地区に的を絞って能力を底上げし、完成前でも暫定運用や既存施設の活用で効果を早めに出す、という考え方です。
出典 ・品川区が取り組む浸水対策事業(更新日:令和7年9月17日) ・品川区総合治水対策推進計画(令和7年9月改定) ・東京都下水道局「浸水ゼロ・安全・快適!下水道」
50mm/h対応とは何を意味するのか
1時間に50ミリという降雨は、都市部では珍しくありません。排水系の設計で言う50ミリ対応とは、一定規模の雨までなら、主要な交差点や住宅地の路面に長時間の湛水を起こさずに流し切れる能力を持つ、ということです。具体的には、雨水幹線の断面を太くし、貯留・調整施設を組み合わせ、局所的なボトルネックを解消することで、短時間の強い雨でも水位の立ち上がりを抑え、引きを早くします。
ただし、近年は時間75ミリ級の豪雨も増えています。東京都の方針では、床上浸水が広範に想定される地区では75ミリ対応の施設整備へと段階的に高めていくとしています。つまり、50ミリは通過点でもあります。区としては、まず常襲エリアの50ミリ対応を確実に仕上げることが、最初の分かれ目です。
出典 ・東京都下水道局「浸水対策の取組方針(経営計画2021)」
地図で見るボトルネックと、完成後の姿
戸越・平塚・西品川は、谷状の地形と細街路が多く、内水氾濫が起こりやすい条件が重なっています。区の浸水ハザードマップは、想定最大規模の降雨でどこが深く浸水するかを示しており、過去の浸水実績も重ねて表示されています。ここから読み取れるのは、河川から離れたエリアでも、地盤高の低い窪地や幹線道路のアンダーパス周辺で水が集まりやすいということ。特に通学路と重なる箇所は、雨水ますの詰まりや歩道の縁石高さ、交差点の段差が安全に直結します。
幹線整備が進むとどう変わるか。期待できる効果は主に二つです。第一に、降った雨が地下幹線にスムーズに落ちていくことで、路面に現れる水位の立ち上がりが遅く、低くなる。第二に、降雨が止んだ後の引きが早くなり、通行止め時間が短縮される。雨の出口と一時的なバッファが強化されるイメージです。ただし、計画を超える雨では、溢れは生じえます。だからこそ、ハードの効果を最大化するための運用と地域の備えが重要です。
出典 ・品川区 浸水に関するハザードマップと浸水実績(更新日:令和7年5月27日)
通学路の安全をどう底上げするか
冒頭の豪雨のとき、娘のことが真っ先に頭に浮かびました。学校からの帰路で安全に屋内へ退避できるか、横断歩道の白線は滑らないか、マンホールの蓋付近は避けられるか。保護者の視点から、通学路で今日からできる実務的な改善をまとめます。
一 低地とアンダーパス手前にある迂回掲示を標準化する 短い迂回でも、事前にルートを知っていなければ動けません。学校とPTA、自治会で、雨天時の一時迂回ルートを地図で共有し、現地に小さな案内札を設置します。特に谷底に向かう下り坂の手前に、視認性の高い掲示が効果的です。
二 雨水ますの定期的な点検と清掃を地域行事にする 落ち葉やゴミ詰まりは、小さな豪雨でも内水を一気に悪化させます。自治会の清掃日に、通学路周辺の雨水ますの目視点検を項目に加え、危険箇所は区に通報。学校周りは学校と分担を決めると継続しやすい。
三 横断歩道の縁石高さと段差の棚卸し 低い縁石や破損した段差は、浅い水深でも水流を路側帯へ呼び込む原因になります。歩行者の水はね被害も増えるため、危険箇所を地図化して道路管理者へ改善要望を出す。簡易的な止水板や砂袋の臨時配置を試行する手もあります。
四 下校時刻の前倒し連絡の訓練 気象警報発表時の学校判断は迅速化していますが、家庭側も受け手の動きを磨く必要があります。グループ連絡のテンプレ、避難先の優先順位、公共交通の運休情報の共有など、年に一度は模擬訓練を。
五 子どもの足元装備を見直す 防水性の高い靴、替え靴下、簡易レインパンツ。とっさの退避では足元で体力を消耗します。ランドセルに入る防水ポーチを標準装備に。
家と商店街が持てる小さなハード対策
あと少しのハードで、被害は目に見えて変わります。
家でできること
・ドア前の簡易止水板と、玄関マットの吸水性を上げる工夫。
・雨どいと排水口の定期清掃。特にベランダ排水は詰まりやすい。
・床下換気口の簡易養生材の準備。浸水時の泥の侵入を軽減します。
・洗濯機の排水口や浴室排水の逆流対策。ゴム栓や止水弁を見直す。
商店街・事業所でできること
・歩道への物品の仮置きを見直し、排水の流れを妨げない陳列にする。
・シャッター前に簡易土のうを積む手順書の整備と訓練。
・共同購入で止水板や土のう袋を常備し、貸し出しルールを作る。
区や都の大規模投資と、地域の小さなハードを噛み合わせることで、体感は確実に変わります。
データで追う進捗と効果
完成前からでも、効果を見える化する工夫はできます。例えば、豪雨のたびに特定交差点の湛水時間を記録する方法です。雨雲レーダーのピーク時刻と現場の水位写真、交通規制開始から解除までの時間を集めるだけで、幹線の暫定供用前後での差が分かります。学校や商店会、自治会ごとに担当ポイントを決めれば、地域のデータベースになります。
また、区の公開している町丁別浸水実績一覧は、月次で更新されます。これと地域の記録を合わせれば、どこに投資が効いているか、どこが残る課題かを定量で議論できます。ハザードマップは最大規模降雨を前提にしているため、日常的な豪雨での局所湛水は地図に出ません。だからこそ、生活者の記録が生きます。
出典 ・品川区 町丁別浸水実績一覧(令和7年4月現在) ・品川区 防災地図(浸水ハザードマップ)
親として、地域の一員として
あの日、私は娘に連絡を入れながら、次のことを強く意識しました。第一に、無理に走らない。水の流れは膝下でも体勢を崩します。第二に、マンホールや側溝の蓋付近を避ける。第三に、低地を避けて、近い屋内へ早めに退避する。娘からは、クラスメイトが横断歩道の白線で滑りそうになったので慎重に歩いた、という返事が来ました。
親としての備えは、心配性だねと笑われるくらいでちょうどいいのかもしれません。ランドセルには薄手のレインパンツと替え靴下、モバイルバッテリー。家の玄関には簡易土のうと止水板。自治会の清掃日に雨水ますの目視点検。こうした小さな積み重ねが、幹線整備の効果を引き出します。
おわりに
50ミリ対応は、ゴールではなくスタートラインです。完成すれば、短時間の豪雨で路面の立ち上がりは穏やかになり、引きも早くなります。でも、75ミリ級の雨はこれからもやってきます。ハードとソフト、行政投資と地域の工夫、データと体験談。その全部を噛み合わせて、通学路と日常を守っていきたい。
次の豪雨の前に、できることを一つだけ始めませんか。自治会で雨水ますの点検をする、学校で下校時の連絡テンプレを整える、商店会で止水板を共同購入する。体感は必ず変えられると思っています。
品川区民とつくる未来 代表 新井さとこ
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