品川区民の災害時トイレ計画、実装は進んでる?「いざ」という瞬間に間に合わせるために

こんにちは。「品川区民とつくる未来」の新井さとこです。今日は、少し勇気を出して「災害時のトイレ」の話をしたいと思います。食料や水に比べて語りづらい。でも、いちばん生活の尊厳に直結するテーマです。

先日、中学生の娘と非常用持ち出し袋を見直しました。娘が自分でメモを作っていて、最初の行に書いてあったのは「携帯トイレ(1人1日×5回×3日分)」。正直、私は水やモバイルバッテリーの方を先に思い浮かべていたので、ハッとさせられました。学校の防災授業で「トイレが止まると、避難生活の質が一気に下がる」と教わったそうです。思春期の子にとって、プライバシーや衛生の問題は切実です。だからこそ、今日は品川区の「災害時トイレ確保・管理計画」を、区民の立場から噛み砕いてお伝えし、地域で何を準備できるかを一緒に考えます。

品川区の「災害時トイレ確保・管理計画」って何?

品川区は2025年4月、「災害時トイレ確保・管理計画」(以下、本計画)を公表しました。目的はシンプルで力強い発災後のすべての被災者に、安全で質の高いトイレ環境を確保し、日常の回復を早めること。そのために、避難所や地域拠点、民間施設を含め、誰が・どこで・何を・どの順番で行うのかを整理しています。

本計画には大きく、①現状と課題、②確保・管理の方針、③進捗管理の仕組み、がまとめられています。特に注目したいのは次の3点です。

  1. 必要数の見積もりと確保:携帯トイレ、マンホールトイレ、仮設トイレなど、状況に応じた組み合わせで必要数を試算し、足りない分をどう埋めるかをあらかじめ決める。
  2. 管理・運営の体制:単に物を置けば良いのではなく、だれが設置し、清掃し、消耗品を補充するのか運営体制と手順を平時から決めておく。
  3. 多様な利用者への配慮:高齢者、障害のある方、乳幼児・子ども、女性、外国籍住民など、使いにくさの壁を一つずつ取り除く設計(洋式化、段差解消、照明、音配慮、案内表示、多言語化など)。

抽象論ではありません。区の所管は、避難所や区施設だけでなく、自治会・町会、学校、民間事業者、協定先といった“地域のチーム”まで含めて役割を整理し、アセスメント(点検)→不足の把握→調達・配備→運営のサイクルを回す考え方を示しています。

なぜ“トイレ”が最優先なのか過去の災害から学ぶ

大規模災害では、電気は比較的早く復旧しても、上下水道の停止が長引くことが少なくありません。仮設トイレが届くまでには時間差が生じ、避難所や地域でトイレが絶対的に不足することが繰り返されてきました。暗い、和式、段差、臭気、清掃が追いつかないそうした要因が重なって、行列や我慢が生まれ、脱水・便秘、尿路感染症、メンタル負担といった健康被害にもつながります。

娘が通う学校では、避難所運営の模擬訓練で「最初の1時間はトイレと情報が命」と話してくれたそうです。私はその言葉を家庭に持ち帰り、家族会議で「水より先にトイレ」という合言葉を決めました。水はペットボトルで代替できますが、止まった排水は逆流リスクもあり、勝手な流し方は厳禁。各家庭が“流さない”前提で使えるトイレ(携帯トイレ+受け台+目隠し+消臭)を確保しておくのが、地域全体の負担を減らす第一歩だと感じています。

いま、品川区はどこまで来ている?(私の理解)

本計画は「区が主語」ではなく、区民・事業者・学校・協定先を含めた共同作戦として書かれています。ここがとても良い。区が一方的に“備える”のではなく、地域それぞれの現実に合わせた配備と運営を前提にしているからです。

一方で、現場で動かすにはクリアにしたい宿題も見えてきます。

必要数と調達手段の“見える化”:避難所ごとに、平時から必要数(人数×日数×回数)を掲示し、どこに何セット保管しているか、鍵の所在まで明示する。地図・在庫表の整備が鍵。
設置・清掃・補充の班編成:自治会・PTA・マンション管理組合などからローテーション班を作り、作業所要時間と物資の標準使用量を決める。誰でも迷わず動ける手順書(ピクト+平易な日本語)が必要。
衛生と尊厳の担保:照明・目隠し・音配慮・消臭・手指衛生(手指消毒・ウェットティッシュ)・生理用品・おむつ・介護用品の最低セットを、男女・年齢・特性に応じて配置。多言語・やさしい日本語の案内表示も。
マンホールトイレと携帯トイレの役割分担:マンホールトイレは設置・運搬・水封の手順に慣れが必要。最初の数日は携帯トイレが主力になる現実を織り込む。
情報の一元化:避難所内の掲示板に、トイレの場所・個数・使用ルール・清掃時間を大きく表示。行列対策(動線分離・男女比の最適化・優先レーン)を試行。

地域と家庭で今日からできる「実装チェックリスト」

以下は、私(新井)が自治会、マンション理事会で伴走した経験を踏まえた最低限のチェックリストです。コピーして、次の会合で使って頂けたらと思います。

1)数量と配置

避難所・自治会拠点・マンション集会室ごとに、必要数の目安を計算(例:1人1日5回×3日分=15回/人)。
携帯トイレ(凝固剤付)と受け台(ポータブルトイレ、段ボール便座等)を、男女別・多目的で最低セット化。
仮設・マンホールトイレの設置場所と保管倉庫、鍵の所在を地図化し、誰が開けるかまで決める。

2)運営手順と班編成

設置班/清掃班/補充班を編成。1回の清掃で何袋消費するか、1時間あたりの作業人数を決める。
手順ポスターを作成(ピクト中心、やさしい日本語+英語・中国語・ハングル)。
ゴミ分別:便袋は可燃ごみと分けて保管(二重袋・防臭・防漏)。一時保管場所を指定。

3)衛生・安全・尊厳

照明(LEDランタン・ヘッドライト)、プライバシースクリーン、簡易音消し(ホワイトノイズアプリ可)を確保。
手指衛生:アルコール・ウェットティッシュ・ペーパータオル・ビニール手袋。
生理用品・おむつ・介護パッドの最低在庫。乳幼児・高齢者・障害のある方の優先動線。
臭気対策:消臭剤・凝固剤の相性を確認(混ぜて効果が落ちる製品に注意)。

4)訓練と情報共有

年1回、トイレ設置・清掃のミニ訓練(30分)を会合の冒頭で実施。
在庫棚卸を年2回(梅雨前・年末)。不足が見つかったら共同購入。
掲示・回覧:避難所マップにトイレ位置・個数・清掃時間を追記。SNS・掲示板で周知。

「母と娘のトイレ会議」わが家の準備

娘と決めたルールを、恥ずかしがらずに共有します。

  1. 携帯トイレは“1人15回分”を標準在庫に。家と持ち出し袋に分散(各自5回×3日分)。
  2. 受け台の確保:普段は折り畳んでクローゼット。段ボール便座でも可。
  3. 目隠し:シャワーカーテンと突っ張り棒、もしくは簡易テント。夜間はLEDランタンを併用。
  4. 音の配慮:白色雑音アプリをスマホに入れておく(モバイルバッテリー必携)。
  5. 女子の備え:生理用品は多めに。ナプキン・多い日用・携帯ゴミ袋。プライバシーポーチを作る。
  6. 清掃キット:使い捨て手袋、厚手ウェット、ペーパータオル、消臭スプレー、結束バンド、養生テープ。
  7. 回数をがまんしない:脱水や便秘を招くので我慢はしない。行列を避けるため清掃時間の直後を狙う。

娘は最初、「こんなに要る?」と照れていました。でも、学校の避難訓練後に「女子の個室は並ぶし、暗いと怖い」とぽつり。そこで、小型ランタンとプライバシーポンチョを追加しました。準備は、不安を減らす作業だと実感しています。

みんなで“実装”を前に進めるために区への要望と提案

最後に、区の本計画を地域で動かすための提案と要望をまとめます。

  1. 「必要数と在庫の地図」公開:避難所ごとに、携帯トイレ等の必要数・在庫・調達先を地図+表で見える化。管理者向けに鍵の所在・開錠手順も統一フォーマットで。
  2. 標準キットの型番指定:携帯トイレ・受け台・目隠し・清掃品の標準仕様と型番を示し、共同購入を後押し(学校・自治会・管理組合が同じものを使えるように)。
  3. “30分訓練”の普及:避難所運営委員会・PTA・自治会で設置→清掃→補充の流れを毎年1回、30分の型で実施。区が教材(動画・ポスター)を提供。
  4. 多言語・やさしい日本語の掲示ひな形:図解中心の掲示テンプレを配布し、区施設・学校・民間拠点で統一感を。視覚支援(色覚バリアフリー)も加味。
  5. 女性・子ども・高齢者の声の反映:利用者会議を設け、更衣スペースの併設や授乳・おむつ替え導線など、現場の使い勝手を改善。
  6. 事業者・マンションとの協定強化:仮設トイレの優先調達協定、マンホールトイレ設置の訓練支援協定を拡充。BCPを持つ事業者と相互支援を結ぶ。

私たち品川区民とつくる未来は、自治会・学校・管理組合・商店会のみなさんと一緒に、在庫点検+30分訓練の伴走を始めたいと考えております。希望する団体はご連絡ください。まずは在庫チェックリストの共有からでも大歓迎です。

おわりに:「恥ずかしい」を越えて、尊厳を守る

防災の本質は、人の尊厳を守ること。トイレはその“入口”です。恥ずかしさを越えて語り、準備し、練習する。その積み重ねが、発災直後の最初の一時間を乗り切る力になります。

娘が書いたメモの最後には、太字でこうありました。「わたしたちは、ちゃんと生きる」。その言葉に背中を押されながら、今日も在庫を数え、ランタンの電池を替えます。一緒に、備えを前へ進めて行きましょう。

品川区民とつくる未来 代表 新井さとこ

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