こんにちは。「品川区民とつくる未来」代表の、新井さとこです。
ある夕方、地域のこども食堂を見学させていただく機会がありました。テーブルを囲む子どもたちの中に、学校帰りにランドセルを背負ったまま駆け込んでくる子がいました。スタッフの方が「おかえり」と声をかけると、その子はほっとしたような表情でランドセルを下ろしました。その光景を見て、こども食堂は単に「ご飯を食べる場所」ではなく、「おかえり」を言ってもらえる、もう一つの居場所なのだと実感しました。
品川区内には現在、40か所ほどのこども食堂があります(令和6年7月末時点)。学校でも家でもない第三の場所が、これほど地域に広がっていることに、正直驚きました。今回は、このこども食堂の今について、お伝えしたいと思います。
地域のボランティアが支える仕組み
こども食堂の多くは、地域の方々のボランティアによって支えられています。食材の調達、調理、片付け、子どもたちとの関わり。どれも、決して片手間でできることではありません。それでも各地で続けられているのは、「この街の子どもたちのために」という、運営される方々の強い思いがあるからだと感じます。
品川区社会福祉協議会には「しながわ子ども食堂ネットワーク」の事務局が置かれ、運営者からの相談対応や、寄付の受付・配布などを通じて、こども食堂が無理なく続けられるようサポートしています。個々のこども食堂が孤立せず、困ったときに相談できる先があるというのは、活動を長く続けていくうえで、とても大切な仕組みだと思います。
ひとり親家庭への「しあわせ食卓事業」
ひとり親家庭などを対象に食品を届ける「しあわせ食卓事業」も行われています。お腹を満たすだけでなく、「誰かが気にかけてくれている」という安心感を届ける取り組みだと感じます。経済的な事情を抱える家庭にとって、こうした支援がどれほど心の支えになるか、子育てをしている身として強く共感します。
「貧困対策」だけでは語りきれない役割
こども食堂と聞くと、「経済的に困っている家庭のための場所」というイメージを持たれる方も多いかもしれません。もちろんそうした側面もありますが、実際に現場を見ていると、それだけではないことが分かります。共働き家庭の子どもが一人で夕食をとることを避けるため、親が仕事で忙しく会話の時間が少ない家庭の息抜きとして、あるいは単純に「誰かと一緒にご飯を食べたい」という理由で通う子どもたちもいます。
孤食という言葉があります。一人で食事をとることが習慣になると、栄養面だけでなく、心の面でも寂しさを抱えやすくなると言われています。こども食堂は、そうした孤食を防ぐ、地域の小さなセーフティネットとしての役割も果たしています。ある運営者の方は、「うちに来る子の半分くらいは、経済的な理由じゃなくて、ただ賑やかなところでご飯を食べたいからだと思う」と話してくれました。
運営を続けるうえでの課題
一方で、こども食堂の運営には多くの課題もあります。
- 担い手の高齢化が進み、次の世代の運営者が不足していること
- 食材費や光熱費の高騰により、運営コストが年々増えていること
- 本当に支援が必要な家庭に情報が届いていない可能性があること
- 会場となる場所の確保が、地域によっては難しいこと
こうした課題を行政だけで、あるいは地域のボランティアだけで解決するのは難しいことです。行政、社会福祉協議会、地域の団体、企業がそれぞれの立場で支え合う仕組みを、もっと強化していく必要があると感じています。例えば、企業からの食材の寄付をもっと呼び込む仕組みや、空いている公共施設を会場として貸し出しやすくする工夫なども考えられます。
これから目指したいこと
- 学校や地域の児童館などを通じて、こども食堂の情報がより広く届く仕組みをつくること
- 運営者同士が知恵を共有し合える交流の場を増やすこと
- 企業や商店街と連携した食材提供の仕組みを広げること
- 会場探しに困っている団体に、公共施設の利用をもっと後押しすること
他の地域の工夫に学ぶ
こども食堂の取り組みは全国に広がっており、地域ごとに様々な工夫が見られます。ある地域では、地元の農家や商店と連携し、規格外の野菜や余った食材を積極的に活用する仕組みを作っています。また、こども食堂を単なる食事の場ではなく、学習支援や地域の高齢者との交流の場として発展させている事例もあります。
品川区内のこども食堂の中にも、こうした多機能化の芽が見え始めています。食事をきっかけに、宿題を教えてもらったり、地域のお年寄りと将棋を指したり。世代を超えたつながりが自然に生まれる場所として、こども食堂の可能性はまだまだ広がっていくと感じています。
支援する側にも支援を
こども食堂を運営されている方々とお話をしていると、皆さん口をそろえて「もっと人手があれば」とおっしゃいます。食材の買い出しから調理、会場の設営、後片付けまで、限られた人数で回している運営者の方も少なくありません。
行政としてできることは、資金面の支援だけではないはずです。運営者同士が情報交換できる場を設けたり、企業やボランティアとのマッチングを後押ししたり、「支援する人を支援する」という視点を、もっと持つべきだと感じています。
こども食堂が教えてくれること
こども食堂の現場を見ていて感じるのは、支援する側とされる側という単純な線引きでは語れない、あたたかい関係性です。ボランティアの方々も、子どもたちの笑顔や成長から、たくさんの元気をもらっていると話してくれます。支え合いというのは、一方通行ではなく、双方向に生まれるものなのだと、こども食堂の現場はいつも教えてくれます。
子どもたちにとって、家庭でも学校でもない場所で、安心して自分らしくいられる時間があることは、想像以上に大きな意味を持っています。
わたしからの提案
こども食堂をこれからも地域に根づかせていくために、私は次のような提案を考えています。まず、区の広報誌やウェブサイトで、こども食堂の情報を定期的に、かつ分かりやすく発信すること。次に、企業や商店街からの食材提供をマッチングする仕組みを区がサポートすること。そして、運営者同士が悩みや工夫を共有できる交流会を、定期的に開催することです。
「おかえり」と言える場所が、一つでも多く、この品川区に根づいていくよう、これからも力を尽くしていきたいと思います。
気軽に立ち寄ってみてほしい
こども食堂は、特別な事情がある家庭だけの場所ではありません。「今日は一人でご飯を食べたくないな」という日に、気軽に立ち寄ってみてほしいと思います。開催日時や場所は、しながわ子ども食堂ネットワークや地域の掲示板、区の広報などで確認できます。まずは一度、親子で足を運んでみることから始めてみませんか。
地域で子どもを見守るということ
こども食堂の取り組みを見ていると、「子育ては家庭だけの責任ではない」という当たり前のようで忘れられがちな事実を、あらためて教えられます。血のつながりや家族という枠を超えて、地域の大人たちが子どもたちに温かい視線を注ぐ。そうした関係性が自然に生まれる場所が、これからのまちにはもっと必要だと感じています。
品川区が「子どもにやさしいまち」であり続けるために、こども食堂のような草の根の取り組みを、行政がしっかりと下支えしていくこと。それが、これからの子育て支援のかたちの一つだと、私は信じています。
寄付という関わり方もあります
こども食堂を直接手伝うことは難しくても、寄付という形で関わる方法もあります。しながわ子ども食堂ネットワークでは、食品や物品の寄付を受け付けており、家庭で余っている食材や日用品を活かせる場合があります。「何かしたいけれど時間がない」という方にとっても、無理のない関わり方の一つになるはずです。
これからも見守り続けたいこと
こども食堂という場所が、これからも無理なく、長く続いていくために。運営者の方々の負担が特定の人に偏らないよう、地域全体で支え合う仕組みを、行政としても後押ししていきたいと思っています。
子どもたちの笑い声が響くこども食堂の様子を見るたびに、地域の力の温かさを実感します。この温かさを絶やすことなく、次の世代にも引き継いでいけるよう、これからも活動を続けていきます。
おわりに
こども食堂という取り組みが、これからも品川区の中で自然な形で広がり、地域の当たり前の風景になっていくことを願っています。皆様の身近な地域でも、こども食堂に関心を持っていただけたら嬉しいです。
子どもたちの未来のために
誰かと一緒に食卓を囲む温かさを知っている子どもは、きっと大人になってからも、誰かを気にかける優しさを持てるはずです。こども食堂という場所が育んでいるのは、目の前の一食だけでなく、その先の未来の関係性なのだと感じています。
今度、地域のこども食堂を見かけたら、ぜひ一度のぞいてみてください。きっと、想像していたよりずっと明るく、賑やかな場所だと感じるはずです。
一人の母として
子どもの居場所は、一つあれば十分というものではありません。学校、家庭、そしてこども食堂のような地域の場所。それぞれの色を持った居場所が、たくさんあることが、子どもたちの安心につながるのだと思います。「おかえり」と言える場所が、これからも品川区のあちこちに増えていってほしいと願っています。
品川区民とつくる未来 代表 新井さとこ
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