さよならは、終わりじゃない。愛犬はなとの別れ、そして品川区でペットの看取りや葬儀について

こんにちは。「品川区民とつくる未来」代表の、新井さとこです。

1. はじめに

皆さま、いかがお過ごしでしょうか。

公園を散歩していると、愛犬と楽しそうにボール遊びをする方、日向ぼっこをする猫にそっと話しかけるご婦人など、微笑ましい光景によく出会います。私たちの暮らすこの品川区には、動物たちと心を通わせ、家族として共に生きる人々がたくさんいます。

彼らは、私たちにとって単なる「ペット」ではありません。言葉を交わさずとも心を慰め、日々の暮らしに彩りを与え、時には人生の苦楽を共にする、かけがえのないパートナーであり、家族の一員です。

私にもかつて、ミニチュアダックスフンドの「はな」という、目に入れても痛くないほど大切な家族がいました。やんちゃで甘えん坊で、いつも私の足元をちょこちょことついて回る、愛らしい女の子でした。はなと過ごした15年間は、私の人生にとって何物にも代えがたい宝物です。

しかし、命あるものには、必ず終わりが訪れます。数年前、私ははなを看取りました。覚悟はしていたつもりでも、腕の中でだんだんと温もりを失っていく小さな体を抱きしめながら、私は声を上げて泣き続けました。その後の数ヶ月間、心にぽっかりと穴が空いたような、言いようのない喪失感――いわゆる「ペットロス」に、深く沈み込みました。

今、この文章を読んでくださっている方の中にも、同じような経験をされた方がいらっしゃるかもしれません。

あの子がいない日常に、どうやって慣れればいいのか。この深い悲しみを、どう乗り越えればいいのか。

今回は、私自身の経験をお話しさせていただきながら、大切な家族であるペットとのお別れに、私たちはどう向き合えば良いのか。そして、すべての動物たちが幸せに一生を終えられる社会を目指して、この品川区で、私たちに何ができるのか。過去、現在、そして未来へと続く物語を、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。


第1章:過去(Past) – 「番犬」から「家族」へ。ペットと日本社会の変遷

少しだけ、時計の針を大きく戻してみましょう。

私が子どもの頃、1970年代から80年代にかけて、犬はまだ「家の外で飼うもの」が当たり前でした。「番犬」としての役割を期待され、庭先の犬小屋に繋がれている姿が、ごく一般的な風景だったのです。猫は比較的自由でしたが、「家に出入りする居候」といった、どこか人間とは一線を画した存在でした。もちろん、当時から深い愛情を注ぐ飼い主はたくさんいましたが、社会全体の意識としては、まだ「伴侶動物(コンパニオンアニマル)」という考え方は浸透していませんでした。

しかし、時代は大きく変わります。高度経済成長を経て社会が豊かになり、核家族化が進む中で、人々の心の中に生まれた「癒し」や「繋がり」への渇望が、動物たちとの関係性を劇的に変化させていきました。

室内で小型犬を飼うライフスタイルがブームとなり、動物たちは「ペット」から「うちの子」へ、そして揺るぎない「家族の一員」へと、その地位を変えていったのです。

この意識の変化は、ペットの終末期医療(ターミナルケア)や葬送に対する考え方にも、大きな影響を与えました。かつて、ペットが亡くなると、庭の片隅に埋めたり、行政に依頼して他の動物たちと一緒に火葬(合同火葬)してもらったりするのが一般的でした。それは、決して愛情がなかったわけではなく、それが「普通」の選択肢だったからです。

しかし、「家族」であるならば、その最期も家族として、人間と同じように手厚く弔ってあげたい。そう願う人が増えるのは、ごく自然な流れでした。その受け皿として、1990年代以降、専門のペット葬儀社や霊園が全国的に増え始めます。

個別に火葬し、お骨を拾い、骨壷に納めて自宅に持ち帰る。あるいは、専用のお墓や納骨堂に納める。こうした人間さながらの葬送儀礼が、一つの文化として社会に定着していきました。

私のはなとのお別れの時もそうでした。どの葬儀社にお願いすれば良いのか、どのようなプランがあるのか。悲しみの中で必死に情報を集め、家族で話し合い、はなが寂しくないように、そして私たち家族が心から納得できるお別れの形を選びました。この「選択肢がある」ということ自体が、ペットと人間の関係性が成熟した証なのだと、改めて感じます。


第2章:現在(Present) – 品川区におけるペット葬儀の選択肢と、浮き彫りになる課題

そして現在、2025年の品川区。もし、あなたの大切な家族であるペットが旅立ちの時を迎えたら、どのような選択肢があるのでしょうか。大きく分けて、二つの方法があります。

1. 品川区(行政)に依頼する

これは、最もシンプルで費用を抑えられる方法です。区の清掃事務所に連絡すると、手数料3,000円でご遺体を引き取り、提携する動物霊園で他のペットたちと一緒に合同で火葬・埋葬してくれます。これは、あくまで行政サービスとしての「処理」であり、お骨が返ってくることはありません。しかし、亡くなった命を丁重に扱ってくれる、公的な安心感があります。

2. 民間のペット葬儀社に依頼する

こちらが、現在多くの飼い主が選ぶ方法です。品川区内には専門の斎場はありませんが、多くの業者が区内への出張訪問や送迎に対応しています。

  • 訪問火葬: 火葬炉を搭載した専用車が自宅まで来てくれ、近隣に配慮しながら火葬を行います。住み慣れた家のそばで、最期のお別れができます。
  • 斎場での火葬: 近隣区にある専門のペット斎場へ連れて行き、人間と同じように葬儀・火葬を行います。お別れのセレモニーや、家族での立会い、お骨上げも可能です。

プランも、他のペットと一緒の「合同火葬」、一体ずつ火葬してもらい返骨される「個別火葬」、火葬からお骨上げまで全て立ち会う「立会い火葬」など、予算や希望に応じて細かく選ぶことができます。

【浮き彫りになる、現在の課題】

このように選択肢が増えた一方で、新たな課題も生まれています。

課題1:情報の非対称性と悪質業者の存在

ペット葬儀業界には、残念ながら明確な法的規制がありません。そのため、ウェブサイトに表示されていた料金と全く違う高額な追加料金を請求されたり、遺骨をぞんざいに扱われたりといったトラブルが、後を絶たないのが実情です。最愛の家族を失い、精神的に弱っている飼い主の心につけ込む、非常に悪質なケースも存在します。何を基準に、信頼できる業者を選べば良いのか。その判断が、飼い主にとって大きな負担となっています。

課題2:ペットロスの深刻化と社会の無理解

はなを亡くした時、私が最も辛かったことの一つが、「たかがペットでしょ」という、周囲からの無理解な視線でした。もちろん、誰も悪気があって言うわけではありません。しかし、ペットを飼った経験のない人にとって、その喪失感の深さを想像するのは、簡単なことではないのです。

「いつまでも泣いていないで、元気出して」

「また新しい子を飼えばいいじゃない」

こうした励ましの言葉が、かえって心を深く傷つけることもあります。会社を休むこともできず、悲しみを誰にも打ち明けられず、一人で涙を流す。この「社会的な孤立」こそが、ペットロスをより深刻で、根深い問題にしているのです。

課題3:行き場のない命の問題

そして、私たちが目を背けてはならない、もう一つの大きな問題があります。それは、飼い主の高齢化や経済的事情、あるいは安易な気持ちで飼い始めた結果、飼育放棄されてしまう動物たちの存在です。

家族として迎えられたはずの命が、最期の時を温かい腕の中で迎えることなく、殺処分されてしまうという現実。この悲しい連鎖を断ち切らない限り、私たちが真に「動物と共生する社会」を実現することはできません。


第3章:未来(Future) – すべての命が輝く品川区を目指して

悲しい現実や課題を乗り越え、私たちはどのような未来を築いていくべきなのでしょうか。

はなを亡くした後、深い悲しみの中にいた私を救ってくれたのは、一匹の保護猫との出会いでした。行き場をなくし、怯えていたその小さな命と向き合う中で、私は少しずつ前を向く力を取り戻していきました。そして、はなが繋いでくれたこの命のバトンを、次の世代へと繋いでいきたい。そう強く思うようになったのです。

現在、私はライフワークの一つとして、猫の里親探しの活動に力を入れています。これは、単に新しい飼い主を見つけるだけでなく、命の尊さを伝え、動物と人間が共に幸せに生きる社会の礎を築く活動だと信じています。※猫里親さん募集

この経験を通して、私が考える「未来の品川区」の姿を、いくつか提案させてください。

1. 「ペットの終活」を当たり前にする文化の醸成

人間と同じように、ペットにも「終活」が必要です。元気なうちから、かかりつけの獣医師と終末期医療について話し合っておく。信頼できる葬儀社の情報を集め、万が一の時にどう弔ってあげたいかを、家族で共有しておく。こうした事前の準備が、いざという時の冷静な判断と、後悔のないお別れに繋がります。行政が主体となり、ペットの終活に関するセミナーや、信頼できる業者リストの情報提供を行うなど、飼い主をサポートする仕組みが必要です。

2. ペットロスに寄り添う、地域のサポート体制の構築

悲しみは、分かち合うことで半分になります。品川区内に、ペットロスに悩む人々が気軽に集い、専門のカウンセラーや同じ経験を持つ仲間と語り合えるような、「グリーフケア(悲しみのケア)」の拠点を作ることはできないでしょうか。行政や地域のNPOが連携し、電話相談窓口を設けたり、分かち合いの会を定期的に開催したりする。そうした小さな支えが、多くの人の心を救うはずです。

3. 「ペットショップに行く前に」という選択肢の普及

すべての命が尊ばれる社会の実現には、「保護犬・保護猫」の存在を、もっと多くの人に知ってもらう必要があります。品川区が地域の動物愛護団体と連携し、定期的に大規模な譲渡会を開催したり、区の広報誌やウェブサイトで里親募集中の子たちを積極的に紹介したりする。そして何より、子どもたちへの教育の場で、命を預かることの責任と、保護動物という選択肢があることを伝えていくことが重要です。

終わりに

私の腕の中で、静かに旅立っていった、はな。

あの子がいない世界は、寂しくて、色褪せて見える時が今でもあります。

でも、はなは私に、たくさんのことを教えてくれました。無償の愛を注ぐことの喜び。言葉を超えて心を通わせることの奇跡。そして、命の儚さと、だからこその尊さを。

ペットとの別れは、終わりではありません。

それは、私たちが命について、そして他者への優しさについて、深く学ぶための、尊い経験なのだと信じています。

この品川区が、これからペットを家族に迎えようとする人、今まさに愛情を注いでいる人、そして、かつて愛した子を胸に抱いて生きる人、そのすべての想いに寄り添える、温かい街であってほしい。

そして、人間だけでなく、ここに生きるすべての小さな命が、最期の瞬間まで尊厳を失うことなく、幸せな一生を全うできる社会へ。

その未来の実現に向けて、私にできることを、これからも探し続けていきたいと思っています。

品川区民とつくる未来 代表 新井さとこ

ご意見やご相談はこちらから